307-1ESCENARIO市谷薬王寺
物件概要
- 用途
- 共同住宅13戸・長屋1戸
- 設計・監理
- 木下道郎/ワークショップ
- 構造
- RC造
- 場所
- 新宿区
- 規模
- 地下1階・地上4階
SHIN CLUB掲載あり
物件概要
歴史ある市谷薬王寺町に、街の雰囲気を崩さず溶け込ませるような建物計画をお こなった。
く趣ある姿に、新しく建てる建物も、隣地に建つに相応しいものにするにはどの ようにするか思考した。 そんなとき、事業主が所有していた立派なけやきの一枚板に着目。いつか時期が 来たときに使用しようと保管していたものを思い出し、街の雰囲気、浄栄寺の重 厚感。この建物と調和させるにはうってつけだと考えた。設置場所は、建物の顔 であるエントランスに他ならない。年輪の位置などを吟味し、現場合わせをおこ ないながら、1 番表情が表れる位置でカット。その場で加工、設置などをおこない、 最高の状態で配置することができた。
階段室の踏板は、底が見えるグレーチングを採用。照明の面落ちが階段室の奥深 くまで届き、奥行とストレートのラインを美しく表現。また、ハレーション面を ホワイトにすることで、柔らかく反射した光が竪穴を綺麗に抜けるよう意識して いる。法規上ギリギリの寸法で設計したが、前記の演出によって「魅せる階段室」 となった。 階段室をギリギリまで省いた分、室内などの大切なところは広く取り、開放感と アレンジのしやすい自由空間、さらに最上階は遊び心を散りばめた室内計画となっ ており、そのメリハリのある考え方は、ワークショップ時代から変わっていない 私の設計ポリシーである。
今回の計画では、シンプルで且つ街に溶け込みやすいデザインをテーマとして設 計しているため、各空間に存在する「垂直・直線・整い」が非常に重要であった。 故に、打ち放しコンクリートの出来が、建物のグレードを大きく左右する現場で あったが、出来上がりを見てみるとほとんどの垂直・直線が美しく表現されていた。 現場を納めてくれた小坂所長をはじめ、黄係員、古賀係員、型枠大工、打設工、 仕上げ塗装工など、多くの人たちの細かな気遣いとプロの技が光った現場だと強 く感じ、「こだわり建築の辰さん」の名がまさしく表現された建物だと思う。街の雰囲気を取り込み、敷地のポテンシャルを活かした「ESCENARIO 市谷薬王寺」 は、その歴史と共に、これからもこの街にあり続けていく建物である。
(木下道郎/ワークショップ/木下道郎氏 談)