株式会社辰

158-1GLH(odex glass house Ⅱ)

物件概要

用途
事務所
設計
鈴木恂+AMS Architects
竣工年月
2013年4月
構造
木造
場所
港区
規模
地上2階
SHIN CLUB掲載あり

物件概要

約20年前のこと。ワイン・インポーターの森様は、高輪のご自宅近くに売りに出た物件が気になって仕方がありませんでした。山小屋のように三角形に切れ込んだ屋根と打ち放しのコンクリートの外壁。45度の角度で連なるガラス壁面は西側の眺望を確保して建物に奥行きと変化を与えています。購入され、自身の会社「odex japan」の事務所として使うことにしました。

ビートルズが来日した1966年、若かった森様はシベリアからヨーロッパに旅立ち、その後、ドイツ、デンマーク、イギリスへと放浪の旅を続けました。そしてさまざまな文化を吸収しながら、日本にイギリスの新しいオーディオを紹介する仕事を始められました。1972年には、フランスワインとイギリスのオーディオ製品の輸入を目的として「odex」を設立、28歳のときでした。

その後、フランス、イタリアなど、世界各地を歴訪しながら、ビジネスを発展させ、前述の通り憧れのバンガローを高輪に見つけたのでした。1日中、日光浴が出来るサンデッキ、沈みゆく夕陽を楽しめる大きなガラス窓の部屋。事務所としてだけではなく、ライフスタイルを紹介するコンセプトショップとして、レストラン経営者などを集めたセミナーやワークショップを開いています。 その建物が、建築家鈴木恂氏(早稲田大学名誉教授)の作品「NAH」だと知ったのは、ある学生が「見学をさせてほしい」と訪れたことがきっかけでした。 建物は、当時でもすでに竣工後かなりの年月が経過しており、メンテナンスが必要な状況だったため、森様はすぐに鈴木恂氏の事務所「AMS」に連絡、それから新しいオーナーと設計者の交流が始まりました。 「自分の足で世界を歩き、自分の感覚にあったものだけを輸入し、建物も同様に、ブランドではなく自身の感性で購入された森さんと、世界各地へ赴き、『メキシコスケッチ』など『実測』という手法に基づく著作も多い鈴木先生は、互いに通じるものを感じ取られているようです。ワインの世界で実測を実行されているのが森さんだと感じられるのです」と「AMS Architects」代表の内木博喜氏は、お二人に敬意の念を寄せています。 「常に『本質がどこにあるか』というお互いの価値観を、お施主さんと設計者が理解し合っている。建物にとってこんなに幸せなことはありません。最近、建築家の考え方に共感し、全面的に信頼して設計を依頼されるケースは少なくなっていますが、森さんは理想的な方ですね」と内木氏。

改修工事の折から「次に建てる新築では、ぜひ鈴木先生に設計をお願いしたい」と話していた森様の思いが、今回隣地を購入する機会を得て、上記写真の「GLH」で実現しました。 既存の建物で行っていたワークショップを、さらに一般の方向けにも広く展開していく予定です。

新たな建物の名前「GLH」は「glass house 」という意味です。 「odex japan」の2013年のキーワードは「ワインの世界をもっとやさしく、簡単に、『glass wine』のodex、『house wine』のodex」とのことです。 このodexのコンセプトに賛同した各国の生産者の開発による和のワインとイタリアを代表するワイン生産者、リッカルド・コタレッラとの開発による「phoenix nippon」の2つのシリーズで、このたび全8種類のオリジナルワイン「glass house takanawa」が生まれました。 そして”glass house”と言えば、森様の大好きなビリー・ジョエルのアルバム。 音楽ももちろん、森様のライフスタイルにはなくてはならないもののようです。


ワインインポーターの事務所に隣接して新たに建てられたアトリエスペース。それほど大きくはないこの建物は、既存の「odex glass house Ⅰ」同様、庭やデッキで生み出された広い空間により、高台のこの地域にある種の抜けを作っている。もともと既存のアプローチであった北側の路地空間が、新旧2つのスペースのメインアプローチとなって、そこに並行して走る長いデッキが東西の抜けをつくり、人々を呼び込み集う、光と風のスペースを生み出している。既存建築の再生、孤立しがちな都市空間の中に新たに良質な環境を生み出していく可能性を、この計画は包含している。 1階はアトリエスペースとして利用、2階は、オーナーの「哲学の間」として、座禅、瞑想など個人使用の自由な空間を想定している。 シンプルな構造だが、建物内部でも細部にわたって換気や採光に配慮した工夫を施している。