040-3Quattro Porte(上馬の重層長屋)
物件概要
- 用途
- 共同住宅
- 設計・管理
- 佐藤万芳
- 構造
- RC造
- 竣工年月
- 2003年5月
- 場所
- 世田谷区
- 規模
- 地上4階
物件概要
今月は、5月に竣工した2つの共同住宅のご紹介です。2つとも賃貸住宅で、共通しているのが「長屋」という形式をとっていることです。
建築基準法上、集合住宅は「長屋」と「共同住宅」との2種類に大きく分類されます。違いは、各住戸の玄関へのアプローチ形式にあり、共用スペースを持つか否かにあります。「タウンハウス」や「テラスハウス」と呼ばれる低層集合住宅は、現代の長屋であり、欧米ではよく見かける形式ですが、日本ではあまり人気がなくほとんど分譲されていません。しかし、最近のデザイン性が求められる賃貸集合住宅では収益性を高める上からもこの形式に注目が集まっています。
1つ目の「m-house(レントハウス茂手木)」は、基準法上は「共同住宅」ですが、「長屋」の形式で共用スペースを排除し、収益性を高める設計を行いました。2つ目の「Quattro Porte(上馬重層長屋)」は敷地形状による建築制限があり、東京都の安全条例をクリアするために「長屋」の形式を取り、問題解決を図りました。「m-house」の設計者、鈴木孝紀氏(ハル建築研究所)と、「Quattro Porte」の佐藤万芳氏(空間計画研究所)にそれぞれお話をうかがいました。
鈴木「まず40㎡以上の住戸が8戸必要というオーナーの要望がありました。また第1種低層住居専用地域のため、日影規制に掛からないよう建物の高さを7m以下で計画し、また北側斜線もクリアしなくてはならないという制限がありました。そこで容積の地下緩和を利用して必要床面積を確保し、共用部分を最小にして、賃貸面積を最大限に確保しました。」
―中に8戸もの部屋が納まっているとは思えない、ごく普通の建物なのですが、傾斜地を利用した重層構造の部屋は、それぞれいろいろな表情を見せています。
鈴木「南に3mほど下がっているでしょう。地下1階、地上2階のRC造でいけると思いましたね。費用も工期も無いので擁壁を作ると大変です。それよりも建築そのものをコンクリートの塊と考えれば十分対応できます。地形を生かし、快適でのんびりした空間を考えました。いかにも共同住宅という顔つきの住宅よりも、一軒家のように見えて、各戸の住人がそれぞれのアクセス方法で部屋に入っていく感じがほしかった。」 -鈴木氏は、設計段階で開口部の組み合わせをパズルのように楽しんだそうです。敷地が高台なので、各方角のいろいろな景色をどう取り込むか工夫し、更に外から見たときは、奇抜なデザインはこの閑静な住宅街には適切ではないと配慮しました。
鈴木「このような四角い箱に重層で部屋を入れていくには、構造的な制約はあります。しかし、内部から外がどう見えるのか、変化がある方が住宅として面白いですから、そのあたりをだいぶ意識しました。」
一方、上馬の重層長屋「Quattro Porte」の佐藤氏は、路地状敷地が特殊建築物である共同住宅の条件を満たさないため、「長屋」の形式をとりました。それが、逆に建物の可能性を広げ、正解だったと言います。さらにオーナーの友人ということもあって、オーナーの自由な発想をがっちり受け止めた設計を心がけました。
佐藤「ここは、都会でありながら、路地には昔ながらの魚屋さん、八百屋さん、氷屋さんまである商店街。一般的なマンションにありがちな、エントランスを通って共用廊下からアプローチするよそよそしさはないんです。」
―各住戸はそれぞれ独立した1軒の住宅であり、オーナーの、「4戸全てを住んでみたい家に」という要望を満たすのは苦労でしたが、家族のあり方を考えさせてくれるいい機会になったそうです。
佐藤「僕は住まい手にとても興味があります。プランニングの上でのプロトタイプはありません。力のある住まい手が住んでくれて、こちらがびっくりするようなライフスタイルを見せてもらいたい。とかく水廻りは、スペースとして求心力が働いてしまいがち、視覚的にもスケルトンインフィルの明快さを出すことで、ユニバーサルな使い方が出来ると思います。共同住宅=共用部をもつ、よくあるマンションではなく、所有しなくてもその時々の住まい方をすればいいんです。中身の箱はもっと自由であるべきだと思います。」
設計をする立場として、お二人とも竣工後の賃貸の借り手の動向にも注目しています。経済効率を考えた設計がデザインに反映され、賃貸住宅の選択肢をさらに広げているのです。