151-1La Torretta(沼袋の集合住宅)
物件概要
- 用途
- 共同住宅
- 設計
- 谷尻誠/SUPPOSE DESIGN OFFICE
- 企画
- タカギプランニングオフィス
- 竣工年月
- 2012年5月
- 構造
- RC造
- 場所
- 中野区
- 規模
- 地上6階、塔屋1階
物件概要
新しい発想 (今月のトーク)
写真は、新青梅街道沿いにこのたび竣工した6階建ての集合住宅です。斜めにのびる道との交差点の角地に建ち、変形敷地に沿うように空に伸びていく外形は、下層階から上層階にいくに従って、細くなっていきます。自由な平面形状と最大開口部を確保するために、「最小の柱梁断面を外郭で確保する」という条件が与えられ、その結果扁平柱厚を薄くしていく外観デザインが実現しました(545mmから220mmまで65mmずつ)。そして、大きく開かれた開口部の内側は、通常ならバルコニーなどとされる部分ですが、内部に収めることで新たな利用方法を促すゾーンを作り出しています。 谷尻さんのユニークなところは、建築、あるいは物事の一つひとつの意味を、改めて問い直すところからスタートしていることでしょう。 「既成概念をはずして考える」と一言で言っても、言葉を解体し、定義し直し、新しい価値観を考えることは、スポーツのトレーニングにも似て、そうたやすいことではありません。今月の「Frontline」の取材で、そういうタフな状況を若い人たちにも積極的に経験させていく姿勢に、いったいどうやって教えていくのか、とお尋ねしたところ、「放牧ですよ」と笑いながらも、「人は、追い詰められて初めて自分で考えることを始める」と自身の経験に照らして語ってくれました。先詰まりの経済環境、不安な政治、求められるのは新しいビジネスや発想だと誰もが言います。建築雑誌だけでなく、いろんなメディアで、谷尻さんの言葉は共感を得ています。
さて、10月8日、日本中をビッグニュースが駆け巡りました。ノーベル生理学・医学賞を、京都大学教授の山中伸弥iPS細胞研究所長(50)が受賞したのです。受賞理由は、「生物のあらゆる細胞に成長できて再生医療の実現につながるiPS細胞を初めて作製した」というものです。受精卵細胞をもとにした万能細胞であるES細胞に対し、iPS細胞はいったん分化して出来上がった皮膚の細胞から作られる万能細胞。生命の世界では逆戻りできないはずのプロセスを逆転させるこの研究の成功は、山中伸弥教授が高橋和利講師(当時は特任助手)と2006年発表したものでした。「ネズミの皮膚細胞から作ったiPS細胞を、受精卵に近い状態まで、たった4つの遺伝子を組み込むだけで実現できる」という画期的な研究ですが、研究の途中で、「24個に絞られた魔法の遺伝子」全てを皮膚の細胞に入れると受精卵に近い細胞ができました。が、本当に必要な遺伝子はいくつなのか、チームは悩みます。解決のきっかけを作ったのが高橋講師でした。「導入する遺伝子を1個ずつ減らしてみてはどうか」と提案し、やってみると意外とあっさり4つに絞り込むことができたのだそうです。「高橋氏の発想が大きな意味を持った」と山中教授はノーベル賞受賞直後のTV取材で述べていました。科学者、研究者としての不可欠な資質がそこには感じられました。 物事の存在する意味を行きつ戻りつ考えることは大変なことですが、考え続けることの大切さを教えてくれた、世紀のニュースでした。
「見立て」により、周囲の環境との関係性を自由に設定できる集合住宅
共同住宅の外観はバルコニーが決定している場合が多い。さらに、単身者のバルコニーはエアコンの室外機と洗濯物で成り立っている場合がほとんどだ。そのバルコニーは共用部分であり、一般的に居住者は自由には使えない。ならば、室内を外部に見立て、その部分を有効活用する方が入居者にとっては、外部との距離感を自分でコントロールできるのではないか。つまり内部を外部に「見立て」をすることによって、例えば、40㎡借りている部分を100%所有しているという感覚を持つことができるのではないか。 この計画では室内を外部に見立てることによって、すべての室があたかも庭を持つような空間を目指している。2方向の接道を持つ変形敷地に沿うように建物の外形を決め、最小限の柱・梁によるラーメン構造で大きく自由な開口部を確保している。1フロア2戸の各賃貸住戸は入れ子のような部屋とそれを取り巻く、半外部で成り立っている。その半外部を庭に見立てるのか、オフィスに見立てるのかは居住者の自由である。風呂、トイレ、バルコニーと同様、1日のうち1時間も使わない空間をどう考えるかで、住宅は面白くなる。
構造的には、耐震性を考え、上層階に行くほど柱の厚さが65mmずつ薄くなっていくようにした。それを建物外観に形状として表現し、杉板型枠の打ち放しコンクリートとともに、建物の特徴となっている。スラブ厚を350mmのマットスラブとして、内部空間の自由度をあげ、賃貸フロアでは中央部のコンクリートの境界壁の剛性が建物全体に影響しないように、中央の腰脚部に薄い鉄板を差込み、絶縁した吊壁とした。