株式会社辰

091-1SOI HOUSE

物件概要

用途
住宅
設計
New-guesthouse +Gaino structural DeSIGN office
構造
RC造 一部鉄骨造
竣工年月
2007年8月
場所
渋谷区
規模
地上2階、地下1階
雑誌掲載あり

物件概要

4 年ほど前に同じ町内で等価交換し引っ越したこの敷地にはバラックがあった。

今の基準法下では絶対に通らない古い木造平屋、 が、 それはとても魅力的な小さな家であった。 それ故、 新築でこれより素敵な建物が造れるのか?これが当初最も悩んだことである。 建物は本来 1 回でできたものには限界があり、 それよりも敬愛するスリランカの 建築家ジェフリー ・ バワの作品に見られるように時間に乗せて作っていった方 が決定要因にリアリティがあると僕は考えている。 例えばバワの自邸の 5 期の工事は10年間におよんでいる。 敷地に残っていた長屋と樹木を 「苗床」 とし、 切妻にフラットルーフを付け足し、 私道は内部空間に、新築と 「減築」、 リージョンとミッドセンチュリー、 計画と成り行きといった複数の要素がバランス良く入り混じっているすばらしい 建築である。

SOI HOUSE の工事も決定が遅かったり、 変更が多かったり、 工事中にはご迷惑をおかけしたと思うが、 ある意味自分のそういうこだわりがあった。 日本の多くの建築が求められる、 段取りよく手戻りがない施工は、 手間も押さえ安く仕上がるが、 できたものはきれい過ぎ老けるのも早い。 SOI HOUSE はまず木を中心に植える事から考えた。 最初のプランでは、 神宮前に木しかない空き地を作ろうという野望があったが、 さすがに何も建てないわけにはいかず最低限度のものを上に作ることにした。 それでも建物は木より高くならないようにし、 許容容積の半分は将来増築用に残し、 対照的に大きな地下室を作った。 もともと敷地にあった柿の木は地下室の工事のために残すことを断念したが、 内部空間が減っても、木はあくまでも地面とつながっているようにした。 成長していく木が建物より主になってゆくことで、 家の形が隠れてわからなくなるくらいがいい。

竣工感や、 明快さ、 そして建築的一貫性もここではあまり求めていない。 いかに様々な空間、 材料、 色といったものの多様な質を引き算的でなく足し算的に紡ぐ事を、成り行きに身を任せながら造り出そうとした。そして、今もこの建物は「建築中」 なのである。 それは違う要素が入り混じり、 甘くて、 すっぱくて、 辛いけれども成立している 「タイ料理」 のようなものだと言えば意外とわかりやすいかもしれない。 タイ料理は作ったらもう触るな、という料理ではない。 砂糖、酢、唐辛子、異種の要素が交じり合う、 足し算の住宅ナンプラーという 4 種類の調味料がテーブルに常備してあり、 酸っぱすぎたら砂糖、 甘すぎたらナンプラーを、 という足し算の料理である。 そしてそれは、 自分が 長い間テーマとしている 『渚』 すなわち、 「異種のものごとがぶつかり合う地点こそ不安定で美しい」 というデザインの一番上で考えていることにつながっていくのである。

( 遠藤治郎氏 談)