株式会社辰

044-2Trevento(川口集合住宅)

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物件概要

用途
共同住宅
設計
谷内田章夫/ワークショップ +野口信彦/タカギプランニングオフィス
構造
RC造
竣工年月
2003年10月22日
場所
川崎市
規模
地上9階
雑誌掲載あり

物件概要

埼玉県南部の川口市―「鋳物の街」として知られたこの街は荒川をはさんで東京と隣接し、JR埼京線、京浜東北線などで池袋から30分とアクセスも良く、マンションなどの建設が進みつつある高密度の地域です。今月は先日竣工した、「川口集合住宅」について、設計の谷内田章夫氏/ワークショップと野口信彦氏/タカギプランニングオフィスにお話を伺いました。

「川口集合住宅」はRC造、地上9階建てのオーナー住宅付賃貸住宅です。1階から7階までは各3戸の賃貸部分、8,9階がオーナーの2世帯住宅になっています。

野口:9階建てくらいになると、SRC造として鉄骨も入れる方法もあるのですが、きれいな形でバランスをとることで外観上も複雑でないものをデザインしてRC造にしました。またマンションが北側、西側に隣接しているので近隣になるべく迷惑をかけない形を想定しました。

谷内田:設計を行なうときには、いつもシンプルなものを目指し、敷地の特性を生かして最大限にどんなことが可能か、チャレンジしていくのが自分のスタイルです。

今回も日影規制を考慮して、横へのボリュームを減らし、敷地裏の北側のマンションからのセットバック分を高さでカバーすることになった結果、建物そのもののフォルムはすっきりと仕上がっています。通りをはさんで南側に建つサッポロビール川口工場の閉鎖が決まっており、再開発された場合を考えても余裕のある建て方をするだろうと考えられるので、そちら側に開口部を広く取る、ポテンシャルを生かした設計を行ないました。

―確かに西側は別のマンションがこちらに正面を向け、東側の通りに面した角地は今後大きなものが建設される可能性があるわけですが、互いに協調できる形として川口集合住宅は設計されています。それに比べて建物北側の建つ既存マンションの建て方は、こちら側にまとまったものが建つことは予測可能であったであろうに、ほとんどプライバシーを考慮していない設計になっています。

野口:下層階の賃貸部分については、1フロアにつき3戸、それぞれ特色を持たせています。端の2つが「角部屋」という利点をもっているので、真ん中の部屋には廊下の前に吹き抜けのスペースを設けて遮断された形をとりました。

谷内田:オーナー邸を上階に持ってきたのは、駅周辺にもかなり高い建物もあることから、眺望のよさとシンプルなディテールで、尚且つプライバシーも確保できる空間を提供したかったからです。

「余分なものを排除=内装を排除する」ため、打ち放しの仕様にしていますが、多少冬の寒さを緩和するために「床暖房」をつけています。夏は蓄冷効果があるためそのままでも十分ですが、滞在時間が短い単身者向け住宅なので、日中の影響をそのまま引き継ぐより、温度変化を一定に保ってあげられればいいですね。

壁クロスの手間は環境問題を考えても、賃貸では避けたいと考えます。天井も余計なものを取ることで、階高を取り、ボリューム感を出すことで開放感を得ています。

―建具については、谷内田先生はよくシナベニヤを利用されていますね。

谷内田:内装のシナベニヤについての利点は、

1. 飾らない、シンプルなイメージがでる。

2. 木目があることで汚れが目立たない。

3. 経年変化に強い-古さが出てこない

4. 性能的にフェアである。

5. 塗装品もあり安価である。

ということがあげられます。自宅にも使っていますが、「薄化粧」という感じで10年たっても変わらない印象があり、気に入っています。

―コンクリート打ち放しの建物については、どういう形で次世代へ引き継がせることになると考えますか。

谷内田:内装のスケルトン&インフィルは、意味のない手直しを避け、長持ちさせることをこだわることになります。設備を更新させる必要はいずれ出てくるし、手を加えること自体は重要です。しかしヨーロッパでは、塗装は普通住まい手が自分で行なうでしょう。しょっちゅう手をかけています。完璧な仕上げでなくていいのです。変化の余地を残す建物をつくっていくのもいいものです。しかし、汚れないように、長年の使用に耐えうる骨格のしっかりしているもの、揺るがないラインを最初に提供しておくのがいいですね。

建物の欠点は重箱の隅をつつけばきりがない、しかしそのようなものを圧倒してしかるべき存在感がそこにあればいいと思います。

コンクリートは材料を沢山使えません。その存在感が勝負です。躯体のいろいろな隙間、例えばベランダや廊下など、きれいに見せるための技術が必要です。

今回は、建物全体は野口さんと協議し、細かい部分を含め、野口さんにがんばっていただきましたが、非常に丁寧にできたと感じています。外壁のフォルムのまとめ方やコンクリートのスリットなど、野口さんの得意とするところは非常に参考になりました。

野口:マンションの名前は、オーナーが、「TREVENT(トレベント=3つの風)」 と命名されました。オーナー&ワークショップ&タカギプランニングオフィスの三位一体で、信頼できる建物づくりができたという気持ちが反映されています。いいコラボレートが出来たと思います。

―どうもありがとうございました。